TOT・Zレーサー発の新たなエンジン系パーツを一挙に市場へ・ACサンクチュアリー
タイムを詰めるスムーズさをもたらす新6速クロス
アイキャッチの写真のZのクランクケースに収まるのはミッション。Zを見慣れた人には分かるだろうが、ギヤの枚数もギヤ歯も純正5速のそれとは異なる。アウトプット側に備えられたアルミ削り出しプレートに気がつく人もいるだろう。
▲ACサンクチュアリー/ノーブレストの代表、そしてDiNx社の代表を務める中村博行さん。Zレーサー3号機の活動は今回分以外にも多くのパーツ開発につながるという。
「新たにラインナップしたZ系New6速クロスミッションです」と、ACサンクチュアリー中村さん。先のTOTではZレーサー3号機を走らせ、パドックではこのミッションを始め、多くのZ用新作パーツも展示され、多くの目を惹いていた。
「New6速ミッションも他のパーツの多くも、そのZレーサー3号機で開発したものなんです。6速自体は今までも使ってきましたが、’20年にマークしたツクバ58秒071という空冷ベストラップの走りを超えるには、より良いものが必要になったんです。
後軸150psというピークパワーは絞り出していても、空冷のスーパーモンスターエヴォリューションが一緒に走るハーキュリーズの200ps級水冷マシンに互するには、ロスは徹底的に減らしたいし、出てくるパワーを無駄なく使えるようにしないといけない。
▲ACサンクチュアリーのZレーサー3号機。2023年秋の最終参戦の勇姿だ。
Zレーサー3号機の基本的な戦い方も、ツクバのインフィールドでいかにコンパクトなラインを取り、立ち上がりという部分でタイムを稼げるかでしたから、エンジンは中間トルクを高め、さらにそこに合わせたギヤ比も詰めていく必要が出ました。ファイナル(2次減速)で合わせるのは合う合わないがどうしても出るので難しい。ならばと作ることにしました。
2速はロングにしてヘアピンからの立ち上がりを合わせたいなど各区間の特性をライダー(國川浩道さん)に聞き、データロガーから得たログを解析する。それらを元に最適なギヤ比を導き出して、そこに合わせるように。軸間はZ純正から変えられないので、モジュール(ギヤ歯のピッチ)を微調整して最適なギヤ歯距離を出し、専用のホブ(ギヤ歯を削る工具)も用意して作りました。
2速で4つなど、多くの仕様をテストして、1速はショート、2速と5速はロング、6速も純正5速より少しだけロングにと決めました。高速走行時にエンジン回転の上がり過ぎを防げますから、負担が減らせます。5速も3号機でツクバ最終コーナーのバンク中に10400~10500回転となるところを9700~9800になるようにして、エンジンが無駄に回らず、消耗度合いを抑えることができるようになりました。このミッション製作には試作メーカーの協力も多くいただきました」
ロングアウトプットで対応にバリエーション
レシオを決め、他の仕様も決めていく。Zレーサー3号機ではクイックシフターの使用を前提にしているため、短い点火カット時間内でのシフト操作に合わせてできるだけスムーズで正確に操作用パーツが動き、噛み合いができるかも要点となる。
▲New6速クロスミッションに付属するシフトドラムはシフターによるラフな操作にも付いてくる軽快で確実な操作性を実現するため素材や熱処理も見直し、シフトフォーク作動用の突起が入るリード溝の設計や精度に配慮した。
「このNew6速のためにシフトドラムも新作するのですが、シフターでのラフな操作にもギヤをスライドさせるシフトフォークがスムーズに付いてくるように、リード溝(シフトフォークの裏側に付く突起が入り、突起が溝内をスライドすることでシフトフォークが動く)の設計と精度にこだわりました。
ほかにもシャフトのスプラインはインボリュートラインとして各ギヤの傾きを抑えてロスを減らしましたし、ドッグも逆テーパードッグでギヤ抜けを抑えています」
▲各ギヤは逆テーパードッグ加工/浸炭焼き入れ加工され、シャフトはギヤの傾きを抑えるインボリュートスプラインを持つ。
レーサーのハイパワーで激しい走りに、素早い操作。そこに耐えるスペックが持たされる。その上で、ストリートの利便性にも配慮する。
「このNew6速では、セミロングシャフトKITを標準で用意しました。カウンターシャフト(アウトプットシャフト)を純正より7.5㎜長くしています。ノーマルでも、ベーシックな18インチホイール車でも通常型のフラットフロントスプロケットが使えます」
2.15-18サイズの純正リヤホイールなら付属の7.5㎜スペーサーを外側に付けてオフセット0で。18インチでよく使われる4.50-18サイズを履くなら、PMCソードの5.5㎜オフセット、JB MAGTANの6.5㎜オフセットに合うカウンターシャフトスペーサーを別売りで用意することで、容易に対応する。
ここにも、New6速を使う意味が出てくる。フレームを加工してチェーンラインを確保していれば21㎜オフセットスプロケットを使うことで180幅以上のリヤ17インチタイヤも履ける。さらにNew6速EVOシステムでオフセットスプロケットが不要になる。
「従来のEVOシステムにNew6速を合わせて、カウンターシャフトは23㎜ロング。フラットなスプロケットが外に出て、その内面とクランクケースの間に削り出しのEVO強化ミッションカバーが入る。ベアリングも入ってミッションの支持をより安定させます」
多彩な仕様のZに合わせたラインナップ。ここも見逃せない。
ピストンにコンロッド、ケース側アップデートも
レーサーからのフィードバックパーツはまだある。“Z”トロコイドオイルポンプ+深底オイルパンコンビネーションKITは、オイルパンを現代モデルのように深底とするもの。ここにオイルを溜め、深いバンク時にもエアを噛まずにオイルを送る。吐出量を高めたトロコイドオイルポンプ用で、オイルクーラーを増設していても不安なく高速バンクできる。
▲オイルパン内で加速や減速時に乱れる油面、またフルバンク(特に右バンク時)にオイル吸い込み口が油面から出てしまい、エアを吸ってしまう。この対策に用意されるのが“Zトロコイドポンプ専用ビレット深底オイルパンKIT”。ビレットオイルパンに別体のビレット深底部を組み合わせ、エア噛みを防ぐ。12万9800円
クランクケース側も、Z1~MkⅡにZ1100R/GPz1100の純正肉厚シリンダーブロックを組み合わせるための加工=モディファイパッケージを用意する。アッパーケース上面前側の肉盛りと成型、後ろ側のカムチェーンガイドブラケット装着用加工。
「レーサーもビッグブロックでなく、純正シリンダーを使って排気量を拡大しています。それは、レーサーもストリート用コンプリートカスタム、RCMと連動すると考えるから。レースはパーツ確認の場でもあるんです」とも中村さん。
このケース加工は内燃機加工部門であるDiNx社で行う。DiNxでは’24年にコンロッドコンバートクランクリビルドも始める。オリジナル鍛造ピストンもレーサー用とストリートで求めるスペックの違い仕様を変えるなど、こちらにもZレーサーやRCM用に依頼された内燃機加工のノウハウがしっかり生かされている。
Zレーサー3号機で開発された新パーツ群。これらでZカスタムの世界も、RCMの仕様も、また新たな広がりが出てくる。その広がりの先も、見てみたくなる。
▲オーナーがカラーリングからパーツ選択までを指定した通算619台目のRCM。クールで統一感あるカラーリングにセパハンや精密加工エンジンを組み合わせたコンプリートの例だ。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!
スムーズな作動とギヤ比を考慮したNew6速クロスミッション
これは「New 6速クロスミッション EVOシステム」で、カウンターシャフトが純正より23㎜長い。またスプロケット~ケース間には付属の「EVO強化ミッションカバー」が入る。写真左側のプレート=ミッションカバーと、その外に付くベアリング入りの小さめのカバー(写真ではカウンターシャフトが貫通している)で、カウンターシャフトを外側からも支持する。
Z系 New6速クロスミッションはノーマルよりも7.5㎜長いセミロングカウンターシャフトを標準としたセミロングシャフトKIT(49万2800円)として販売される。ノーマルでも、リヤ18インチ仕様(左下で説明するオプションスペーサー併用)でもフラットなフロントスプロケットが使えるようになる。各ギヤは逆テーパードッグ加工/浸炭焼き入れ加工され、シャフトはギヤの傾きを抑えるインボリュートスプラインを持つ。ニュートラルファインダーも採用。
カウンターシャフト(アウトプットシャフト)の比較。New 6速クロスミッションでは純正よりスプロケット側を7.5㎜長くしたセミロングカウンターシャフトを標準とし、ノーマルはもちろん(付属の7.5㎜スペーサー使用)、ベーシックな18インチホイールでフラットスプロケットを使えるようにした。またNew 6速クロスミッション EVOシステム用の23㎜ロングカウンターシャフトではオフセットスプロケット不要となる(シャシー側のチェーンラインは要確保)。
New 6速クロスミッションは18インチの主なリヤホイール用にカウンターシャフトスペーサー(2枚1組4400円)をオプション設定する。「PMCソード用」はロング化した部分にまず5.5㎜厚を入れてフラットなスプロケットを入れ、外に残る2㎜厚を入れる。「JBマグタン用」は内6.5㎜厚/スプロケット/外1㎜厚の設定だ。21㎜オフセットスプロケット(530/520用あり)を使えば180サイズ幅以上の17インチタイヤにも対応する。
内燃機加工部門のノウハウを生かしたサービスも
DiNx 鍛造ピストン。右のZ系ストリート用はA4032製で圧縮比11.0のφ75㎜。ほかに圧縮比10.8のφ67、φ71、φ73㎜の設定がある。13万8600円。左のレース用はφ78㎜でA2618製と素材も、トップやバルブリセス、スキッシュエリアの取り方も異なる。非売品だ。
アップデートしたクランクリビルドも’24年開始
DiNxでは従来行ってきたクランクリビルドをアップデート。スチール鍛造コンロッドを用意し、クランク分解後にベアリング/スラストシムとともに新品交換、気筒の位相ズレを直しつつ組み立てる。滑らかなフィールや低振動化できるメリットもある。パッケージメニューとして用意する。コンロッドが入手できても優れたリビルド技術がともなわなければ意味がないため、単体販売は検討中。
上写真は今も行っているクランク芯出しの様子(DiNxに依頼できる)。下写真はバランスマシン。
New 6速クロスミッション使用時には純正クラッチハウジング(鉄製)が使えないため、サンクチュアリーではZ1000J/R系のアルミハウジングへの変更を推奨している。写真はPAMS製クラッチハウジングコンバートKIT。まとめてサンクチュアリーに相談するのがいい。
バンク時にもオイル供給を安定させる深底オイルパン
オイルパン内で加速や減速時に乱れる油面、またフルバンク(特に右バンク時)にオイル吸い込み口が油面から出てしまい、エアを吸ってしまう。この対策に用意されるのがZ トロコイドポンプ専用ビレット深底オイルパンKIT(12万9800円)にトロコイドオイルポンプも同梱するコンビネーションKITは19万8000円。
アルミビレットオイルパンの内部容量は純正オイルパン同等。深底部との合わせ面はOリングが入り、ボルト着脱式のため定期洗浄も可能。また深底部内部には上下2方向にストレーナーネットを持った吸い込み口を固定している。
前期型Zに後期型Zシリンダーを組み合わせる際の加工もメニュー化
いわゆる後期型Z=Z1100R/GP、GPz1100は前期型Z=Z1~Mk.Ⅱよりも肉厚のシリンダーブロックを持つ。そのためピストン/シリンダーの大径化(φ76㎜以上)に適合できる。この後期型シリンダーを前期型Zに取り付けるための加工、クランクケースモディファイパッケージ(12万9800円)をDiNxで用意。ケースを預けて加工するサービスだ。
パッケージに同梱されるカムチェーンブラケット。
カムチェーントンネル前側(写真下側)は肉盛り溶接→面研→Z1000J/R系ベースガスケット形状に合わせた成型。後ろ側はパッケージ同梱のカムチェーンブラケットを収めるための切削加工を行い、ケース上面を正確面研するという内容。カムチェーン/ガイドもハイボチェーン仕様となる(別売)。
【協力】
ACサンクチュアリー(SANCTUARY本店) TEL04-7199-9712 〒277-0902千葉県柏市大井554-1 http://www.ac-sanctuary.co.jp
※本企画はHeritage&Legends 2024年1月号に掲載された記事を再編集したものです。
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