ニンジャ特有のポイントを押さえ環境や状態変化に応じた部品交換や選択で対応—GPZ900Rの新規登録車で水冷旧車のツボを知る・ブルドッカータゴス
旧車の新規登録整備はリフレッシュの参考だ
絶版車と聞いて思い浮かぶ車両。その筆頭のひとつに挙がるのが、GPZ900Rニンジャだろう。1983年秋に姿を現し、同年末にアメリカ・ラグナセカサーキットで世界試乗会を行う。’72年の登場から10年を世界のトップでいたZシリーズに続く10年を担うカワサキの新フラッグシップスポーツとして、同社初の水冷直4エンジンやDOHC4バルブヘッドなどを備えていた。
コンパクトながらスープアップの余裕も持ったそのエンジンに空力に優れたフルカウル、ダイヤモンドフレームにユニトラック・リヤサスなど、今見ても40年前登場という古さを感じにくいモデルだ。
▲創業26年、ニンジャを中心に各車を扱うブルドッカータゴスの代表、田子敏幸さん。お店は関越道・本庄児玉IC経由など関東各地からもアクセス良好。
そのニンジャシリーズを多く扱い、テイスト・オブ・ツクバにも参戦。オリジナルパーツも含めて多くの手法やアイデアを持つのが、ブルドッカータゴスだ。今回は絶版水冷車のリフレッシュ例に好適な見本車を用意していただいた。
「A6の国内新規登録車です。オーナーさんが、若い頃の憧れだったニンジャに乗りたい、乗れるようになって、最近入手されて当店に持ち込まれました。まず憧れがどうだったか知るためにノーマルで乗りたいということで、必要な箇所を見直して乗り出せる状態にしました」
▲今回用意されたBULL DOCKER TAGOSのGPZ900R。ほぼノーマルの前期型A6(オランダ仕様)ニンジャに必要な手を入れて、まずノーマルの乗り味を知るべく、タゴスに車検と必要な整備を依頼し、国内新規登録されたものだ。
タゴス・田子さんはすっとこの車両の背景を教えてくれる。フロント16インチもエア式のリヤショックも、外装に至るまでノーマルというレア仕様。逆に言えば、この状態で換わっているところが田子さんがリフレッシュした箇所、つまり参考にしたい部分になる。
「この車両は7万km走っているんですけど、大物パートの状態はいい方でした。ですから基本整備や、ニンジャで出てきがちな不調の対策をしてやるのが主でした。部分ごとに見ていく前に、これも“ニンジャあるある”で見ておいてもらった方がいいでしょう」
▲長年の使用による燃料の染み込みでボックスに割れが。
そう言って田子さんが見せてくれたのは、ニンジャ純正のエアクリーナーボックスとマフラーだ。写真を見ると分かるが、エアクリーナーボックスは前下と左横にヒビが入るというか箱をこじ開けた状態になり、マフラーは4-2に集合した左右をさらにつなぐ連結部でぱっきり割れている。
▲強いと思いがちな純正マフラーも肉痩せで割れる。
「どちらも経年によるものです。エアクリーナーボックスは“何だかエンジンの調子が悪いな”という車両で見つけました。元々組み立て式でちゃんと密閉されているんですけど、長年使って吹き返したガソリンが染みてこうなったんでしょう。不要なエアを吸って薄くなったりしたんですね。
マフラーは、純正は意外にダウンチューブ的な役目も持っていたんでしょう。この部分は車体の中央くらいで、高速コーナーなどでストレスがかかったりしてたんでしょうね。経年で肉も薄くなったりサビも出て、割れたようです。ニンジャで何か調子が悪いなという時には、こんなこともあるかもくらいで覚えておいてもらうといいです」
電気・水・吸気が気遣いポイントだ
壊れないだろうと思うようなパーツでも、しっかり確認しておく。直接燃料が通ったり、力がかかったりすると思えない場所でも、影響がある。ならば直接そうしたものに触れる箇所は、もっと気を遣う必要があることになる。燃料タンクやサイドカバーなど外装を外すと、そんな箇所が続々と出てくる。
「電気系や吸気系は真っ先に見ておきたい部分です。電気から言うと、まずイグニッションコイル。タンクの前下にある筒型のパーツですけど、これを新品にするだけでもだいぶ調子が良くなります。お客さんの車両でもぐずっているようなものがこの交換でしゃっきりした例が多くあります。ですからエンジン本体よりも、まずこのあたり。
合わせてバッテリー。今ならリチウムイオンもかなり使えます。バッテリーターミナル、それからメインハーネスも新しい方がいい。メインハーネスはまだ出ますから、今のうちに換えたい。古くなって固いと折れたりしますし、新しくて柔らかい線の方が、他への干渉などもしなくて済むはずです。古くてエンジンがかかったままキーが抜けてしまう車両ならキーシリンダーも変えましょう。
それで点火プラグ、プラグキャップ。新しくして、火花をしっかり飛ばす。ニンジャだと#1(左気筒)のプラグホールに水が溜まったりするので、そこも注意です」
▲シートを含めた外装類を外せば、キーポイントの多くにアクセスできるのも当時の車両の特徴だ。
吸気系ではキャブレターのインシュレーター、エンジン側のマウントラバーがやはりニンジャでも要注意。硬化やヒビ。これを留めるバンドも古いと伸びたり、部分的に締めが強くなってゴム側を変形させて2次エアを吸うなどがあるから、交換となる。
せっかくエンジンをしっかりさせてタペット調整までしても、ゴムやプラグキャップが硬化していて正調にならないと2度手間になるし、換えましょうとも田子さん。さらに水冷だから当然とも言えるが、水まわりもポイントは多い。
「ニンジャとしてはウォーターポンプのメカニカルシールがダメになって冷却水がエンジンオイルに混ざる弱点があります。このシールが先頃廃番になったので、今はDAEG用で対処しています。冷却水通路の掃除などもありますが、熱対策も考えたい。
ここはラジエーターキャップを換えて密閉性を維持します。2年に一度でいいです。それからサーモスタット。これは純正が82℃で開くのを60℃に換え、まめに開閉することで冷却水を循環させます。見落としがちですけど、こうしたことをやっていけば調子は戻りますし、それを続ければ調子が落ちることも少なくなります」
そんなに教えてくれていいかと思うほど、次々にリフレッシュの要所を教えてくれる田子さん。ほかにも純正カウルのままもっと冷やすならタゴスで用意する3層ラジエーター化もあるなど、奥の手も用意している。
さらに田子さんは外装リフレッシュのポイントも続けてくれる。
▲ライダーが車両に跨がって見える部分をきれいにすれば視野も広がる。メーターカバーは純正では逆車用は出ないが国内用は出るので換えて気分一新。マジカルレーシング製カーボンを選ぶ人も多いとのこと。メーターも回転計はなく、速度計は出る。
「車両に跨がって見える視界も良くしたいですから、メーターカバーなども一新するといいでしょう。割れやすいサイドカバーも、純正にある裏面スポンジをちゃんと張るなどで割れが防げます。ドライブチェーンも、ニンジャなら520サイズでいいです。車両が軽くなります。あと、ここまでお話したようなパーツは、純正が出るうちに予備で手に入れておくといいでしょう」
冒頭のような、今見ても古さを感じない全体像。それでも、40年(最終のファイナルエディションからも丸20年経った)を経過した車両には、リフレッシュの手は欠かせない。
田子さんが教えてくれる手法は、エンジンなどの大物が大きなトラブルを抱える前に、ちょっとした部分を見直す。それで調子を取り戻せるという、まさにリフレッシュの王道だった。これらを施した車両なら、それをベースに、セットアップやカスタムを楽しむ余地も出てくる。
もし自力で出来なくても、ブルドッカータゴスに依頼すればいい。これらの手法で多くのお客さんの車両が復調したのだから、ニンジャオーナーは安心していい。
経年車特有の見えない劣化にも配慮する
経年しているからこそという思わぬ部分の劣化。これにも気がつき、対応することが大事だ。この純正エアクリーナーボックス(写真上が下側)は長期使用で燃料が染みて(底にも溜まる)密閉部分が割け、2次エアを吸って不調を呼んだ例。なかなか気がつかない部分でもあるから、洗い出しを。
4-2-1-2で左右出しの純正マフラーは、エンジンと左右ステップブラケットの3カ所でマウントされる。ダウンチューブのような役目もあったようで、車体にかかる力もじわじわと左右の接続部にかかる。強いはめ込み部の横が肉薄になったこともあって、このように割れることも。
エンジンやキャブの前に電気系確認で調子の向上も
電気系はエンジン復調に効くパート。上写真の指の先にある円筒状パーツがイグニッションコイルで、点火に必要な電圧を作る昇圧部で意外に劣化する。新品交換で調子が出る個体も多いという。
点火の元のバッテリーもイグニッションコイル同様に劣化しているものだ。今ならリチウムイオンで十分(タゴスでもトラブルなし)。バッテリーターミナルや配線類も新しくしたい。
配線が劣化して振動などで折れたりするとトラブルシュートは難しいし、カプラの劣化も同様。入手できる今のうちに新品交換でリフレッシュしたいメインハーネス。A1〜A6逆車用、A7〜A11逆車用(ヘッドライト常時点灯=スイッチ用カプラなし)、A12~A16逆車/A8~A12国内仕様用(イグナイター2カプラ)をタゴスでは在庫し、いずれも3万円程度だ。
跨がって見える視界もリフレッシュしたい
メーターカバーもいくつか種類がある。写真左はA8~A12国内仕様(2ボタンで左がトリップリセット、右が電圧/回転切り替え)、右がA7~A16逆車用(トリップリセットの1ボタン)。上のA6では2ボタンの右がトリップリセットで逆配置。警告灯の並ぶ窓の周部にめっき処理があるかなどの違いもあるので注意も必要。
水まわりの見直しはエンジンの負担を軽減してくれる
水温の上がりが問題になりがちなニンジャでは、冷却系をリフレッシュしてエンジンを楽にしたい。圧力を保つためにラジエーターキャップは交換(純正またはプロト製など)。水温によって冷却水路を開閉するサーモスタット(写真の矢印部に入る)はタゴスでは82℃から60℃に下げ(純正パーツによる)、冷却水を回す機会を増やす。
金属パイプとホースの組み合わせとなる冷却水通路だが、ホースも機会を見て交換したい。使用が進むと写真下の中古のように膨れたようになり、へたっていると分かる。ホースバンドも経年で伸びるので、合わせて交換すると密閉性も高まる。
冷却水を循環させるウォーターポンプは、ニンジャではメカニカルシールの劣化でエンジンオイルに冷却水が混入することもある。タゴスではZRX1200DAEG用を使ってリフレッシュする。
今ニンジャ乗りの間でも増えている純正フルカウル仕様車。
純正フルカウル装着だと、大型ラジエーター化しにくいが、タゴスではオリジナルで前後3層コア化して大容量として冷却性を高める手法も用意して対応する。開口部は要加工だが、これも同店で作業してもらえる。
大きなサイドカバーは割れの予防や修理が可能だ
ニンジャでは割れやすいというサイドカバー。割れていないならきれいにした上でA7~標準の裏面用純正スポンジを張ると、かかとで挟んだときのショックが吸収されて割れが防げる。田子さんはさらに段差の後ろ側に薄いゴムを張り、ゆがみ→割れを防ぐ。装着用ボルトもジュラコンカラーを挿入して落ちないように工夫する。
サイドカバーのかかと擦れでの塗装剥げや傷付きを防ぐにはドライカーボン製のTAGOSヒールプレート(左右セット)。
サイドカバーの取付ボスが折れた際に使えるGPZ900R サイドカバー リペアピンKITもタゴスでは用意する。これらを活用するのもいい。
キャブレターとエンジン、エアクリーナーボックスをつなぐゴム=インシュレーター、エンジン側のバンドも硬化や劣化に注意して折を見て交換。前ページの電気系や右ページの冷却系もそうだが、怪しいなと思える部分の消耗品は極力換えたいとのこと。
ドライブチェーンは今なら純正の530でなく520サイズにコンバートして十分とのこと。RK製チェーンやサンスター製スプロケットで対応できる。かつてZやカタナの多くの車両が純正630から530にコンバートし、一般化したのと同じで、このA6では530を使うが、520も最近主流化している。
【協力】ブルドッカータゴス TEL0270-75-4772 〒372-0825群馬県伊勢崎市戸谷塚町42-1 https://www.bd-tagos.net/
※本企画はHeritage&Legends 2023年12月号に掲載された記事を再編集したものです。
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