これがあれば! こう使うと?! お助けグッズ&ツールではかどるメンテナンス・前編
工具の数が多いほど二の矢三の矢を放てる
1980年代までのバイクには、立派なバッグの中に結構な数の工具が付属していたものだ。ところが最近では、シートボトムの裏側にドライバーと六角レンチ1本だけがパチッとはめ込まれているだけの機種も少なくない。
製品の信頼性が向上し、いざとなれば頼れるショップに駆け込めば良いのも確かだけど、自分の手で愛車の状態を知りたい、コンディションを良くしたいと思うライダーもいることだろう。そんな時に不可欠なのがハンドツールだ。
整備でもカスタムでも、バイクいじりで最も多い作業と言えば、ボルトナットやビスの着脱だろう。六角頭のボルトならメガネレンチやスパナやソケットレンチ。六角穴付きボルト(ヘックスボルト)ならヘキサゴンレンチが必要。年式が新しい機種では採用箇所が減っているが、旧車や絶版車ならドライバーも必須アイテムだ。
▲今回の指南役は栗田 晃さん。“バイクは乗るよりイジる方が好き”という雑誌「モトメカニック(内外出版社刊)」の編集スタッフで、工具企画を長く担当し、新製品や定番商品に数多く触れてきた。
ツールチェストに収まるハンドツールセットの工具に注目すると、プラスドライバーは先端のビットサイズ1、2、3番の3種類、メガネやスパナは8、10、12、13、14、17、19、21mmあたりが備わっていることが多い。だからまだ何も工具を持っていないのであれば、思い切ってセット工具を購入してしまうというのも賢明だ。
その上で、作業内容に応じて追加していくと良いだろう。例えば12mmのレンチもボルトの場所によって、スパナかメガネかコンビネーションかギヤレンチか、使える工具が変わることがある。ドライバーも同様で、先端サイズが同じでも全長が短いスタッビタイプでなければ入らない場所もある。
むやみに数だけを増やす必要はないけれど、経験を積んで工具のバリエーションが増えれば手数が増える。「もうちょっと長ければ届くのに……」「あと少しハンドルが振れればボルトが回るのに……」といったシーンで、二の矢、三の矢を放てるようになる。
ここで紹介するのは、無限に存在するハンドツールのほんの一部。メンテナンスもカスタムも、詰まるところネジを回す行為の繰り返しだ。ボルトやビスを傷めず、苦労せず作業できる工具を選ぶことが、バイクいじりの楽しさを左右する重要な要素になるだろう。
カスタムや走りに加えて、メンテや工具に対する興味を深めることで、愛車への愛着もより深くなるはずだ。
メンテナンスがはかどるアイテム、まずはここに注目
バイクの取扱説明書には、オイル交換やドライブチェーンのたわみ調整といったメンテナンス項目が掲載されているが、同時に「難しければ販売店に持っていってね」という文言も併記されている。純正車載工具を見ても「これで何ができるの?」というほど点数が絞り込まれている。「でも、自分の手でバイクいじりをしてみたい」と思ったとき、ハンドツールの中でどんなアイテムが役立つのか、まずは紹介していこう。
基本のツール
ハンドツールの代表アイテムドライバーは先端形状が命
ちょっと古いバイクに使われているネジで最も一般的なナベ小ねじ(パンスクリュー、パンヘッドスクリュー)を回すドライバー。バイクではプラスが多く、呼びサイズ1、2、3番が使い分けられる。メーカーによって先端やグリップ形状のこだわりが異なり、使い心地にも違いがある。
基本のL字型にドライバー型ソケットもあると良い六角レンチ
十字穴のナベ小ねじに代わって多用されている六角穴付きボルト、いわゆるヘックスボルトに必要な六角棒レンチ(ヘックスレンチ)。作業により長短を使い分けられる基本のL字型(上)に加え、早回しに強いドライバー型(下)、ラチェットハンドルと組み合わせて使う六角ビットソケットがあると便利だ。
レンチは作業に応じて使い分ける同じサイズでも複数あると便利
写真の5本のレンチはどれも12mmサイズで、ヘッドの厚みやスパナかコンビか、全長の違いで出番が異なる。1本ですべての作業に対応できれば最高だが、実際はそうはいかないことも多い。メガネ部分にラチェット機構を内蔵したギヤレンチ(上から4番目)は、ソケットレンチに匹敵する早回し性を発揮する。
通常のレンチよりガタが少ないクニペックスのプライヤーレンチ
ボルトナットはレンチやソケットで回すのが大前提だが、スウェーデンのバーコ製モンキーレンチ(写真下)やドイツのクニペックス製プライヤーレンチ(同上)は、アジャスタブルタイプにもかかわらず開口部のガタが皆無で、六角部をなめずにボルトナットを回すことができる。これらはおすすめだ。
ボルト径やカラーの寸法測定では測定工具が必要不可欠
パーツの着脱でボルトナットを回すだけでなく、分解後にボルトの太さや長さ、ホイールカラーの厚みを測定する際には、ステンレス製のスケール(写真下)やノギス(上)も持っておきたい。一般的なアナログタイプのノギスの最小読み取り値は0.05mmだが、デジタルノギスの中には0.01mmまで読める製品もある。
あると嬉しいソケットツール
高機能ラチェットハンドルこそソケットレンチの心臓部
ラチェットハンドルはギヤ数が多いほど少ない振り角でソケットを回せるが、内部のフリクションが少ないことも重要。ソケットレンチ専門メーカーである山下工業研究所(コーケン)のラチェットハンドルは空転トルクが軽いのが特徴。写真は72歯ギヤのZ-EAL(ジール)で、プロユーザーからも絶賛されている。
六角部外周のスリムさと背の低さがZ-EALソケットの特長
ソケットは全長によってスタンダード、セミディープ、ディープ等に区別される。狭い空間での使い勝手向上を追求したコーケンのZ-EALソケット(写真)は、一般的なスタンダードタイプより全長を30%以上短縮。ボルト周辺が立て込んでいても干渉しないよう、六角部外径の細さにもこだわっている。
セット工具を持てばソケットレンチの利便性が分かる
ハンドルやソケットやエクステンションバーなどを必要に応じて買い足すのも良いが、バイクいじりを長く続けるなら使用頻度の高いアイテムを集めたセット工具を購入した方が効率が良い。写真はコーケンZ-EALの差込角3/8インチメタルケース入りセット。
ブレーキや足まわりのメンテ時はスタンドで車体を安定させよう
ドライバーやレンチなどのハンドツールだけでなく、メンテナンスの内容によっては専用工具やガレージツールが必要になることもある。作業が比較的容易で明確な効果を実感できる、チェーン調整やブレーキのキャリパーピストンのもみ出し作業に適した専用工具も、ネットや工具ショップで容易に手に入るので活用してみると良いだろう。またAC100V仕様のエアコンプレッサーも、設置場所があれば持っておいて損はないアイテムだ。タンク容量が小さいと連続して吐出できる空気量にも限りがあるが(再起動が頻繁になる)、タイヤの空気圧調整や洗車後のエアブローなど用途を決めれば十分使える。
リヤスタンドでタイヤが浮けば洗車やチェーン注油もラクラク
サイドスタンドしか持たない最近のスポーツバイクにとって、リヤスタンドはメンテナンス時の必須アイテムだ。デイトナではリヤ用だけでなくフロント用やフレーム用など、スタンドだけで10種類近くの製品をラインナップ。このスタンドはスイングアームのスプールにあらかじめU型クランプをはめておくことで、車体を直立させる際にスタンドが外れずかけやすいのが特長だ。
デイトナ リアスタンドアジャスタブルIII U型クランプアタッチメント ●デイトナ https://www.daytona.co.jp/products/tobira-J00429-W0000209-genre
U型アタッチメントに追加されたバネクランプ機構により、スイングアーム側に追加したスプールに差し込むとカチッとロックされる。スタンド本体高さは9段階に調整できるので幅広い車種に対応。
車体を直立させてからスタンドを差し込むのが苦手というライダーも、これならスタンドとバイクと一体化した状態が作れるので安心。リフトダウン時にもスタンドが後方に飛び出すことがない。
キャリパーピストンの洗浄ともみ出しに最適なブレーキツール
キャリパーピストンは走行中の雨水や砂ぼこり、摩耗したブレーキパッドのダストが付着することで表面が汚れ、適切な潤滑成分がなくなることでフリクションロスが増加してパッド引きずりの原因になるので、定期的な清掃が必要。中性洗剤でブラッシングする際、ピストンの裏側が洗いづらいのが難点だが、ピストンプライヤーがあれば全周くまなく洗浄し、ラバースプレーをムラなく塗布できる。
ストレート ブレーキピストンプライヤー ●ストレート https://www.straight.co.jp/item/19-9889/
グリップを握ると先端が開き、半円形のアタッチメント表面にはキャリパーピストンの内面に食いつくように綾目が刻まれている。ピストンとシールの状態により回りづらいこともある。
ブレーキパッドを取り外してレバーを握れば、キャリパーピストンは徐々にせり出してくる。表面を清掃したらプライヤーで回す。ピストン外周を掴むと傷が付くので、通常のプライヤーは使用厳禁。
ストレート ディスクブレーキセパレーター バイク用 ●ストレート https://www.straight.co.jp/item/19-936/
キャリパーメンテ後、ピストンを押し戻す際に便利な工具。ハンドルを回すと先端が平行に開くので、プライヤーやマイナスドライバーでありがちなピストン倒れを防止できる。
床面の汚れ防止やパーツの紛失予防に最適
ガソリンやオイルを床や地面にこぼさないレーシングマットは、屋外で整備を行うモトクロッサーでは必需品。ロードモデルでも露天や集合住宅の駐輪場で整備を行う際にマットを敷けば気分が上がるのももちろんだが、小さなボルトやワッシャーが落下した際の紛失防止や、取り外したパーツを傷つけず置いておくのにも便利。
CARVEKレーシングフロアマット ●カーベック https://www.carvek.jp/shop/item/5903/
ソフトな表地のベースはガソリンやオイルが浸透しないゴムマットで、ガレージの床面を汚さずスリップ事故も未然に防いでくれる。サイズは2220×955mmとなっている。
ポケットに収まるコンパクトさと明るさを両立
作業時に手元を明るく照らすLEDライトは、さまざまなメーカーから各種製品が発売されている。この製品はCOBライト部分を伸ばすと270mmに、折り畳むと150mmになる2WAYタイプで、折りたたんだ際のコンパクトさが魅力。対象物との距離に応じて明るさの調整も可能。ガレージ用ツールとしてだけでなく、車載アイテムとしても有効だ。
5W COB充電式 フォールディングワークライト WL857 ●アストロプロダクツ https://www.astro-p.co.jp/i/2005000008573
露天作業時はもちろん、ガレージ内で作業する際にも手元の暗さを補うライトは必須。ライト部分はスリムなので、狭い隙間に差し込んで奥を照らすのも得意と言える。
1カ月に1度は確認したい空気圧コンプレッサー不要だから便利
パンクしていないから大丈夫と思われがちだが、タイヤの空気は1カ月で約5~10%以上も自然に漏れる(乗用車用タイヤの場合)と言われていて、自動車よりも空気圧の影響を受けやすいバイクは定期的なチェックが欠かせない。「でも駐輪場にコンプレッサーはないし……」という時に頼りになるのが、バッテリーとコンプレッサーを内蔵したエアポンプ。自動車や自転車にも使える。
スマートエアポンプ JP02 ●キジマ https://www.tk-kijima.co.jp/parts/s_airpump_jp02.html
本体内部にバッテリーを内蔵するから、充電してあれば電源をつなぐ必要はない。コンパクトだから荷物に入れやすいし、出先の路面状況に合わせて、またツーリング先で常に空気圧を把握し調整という時にも有用だ。
本体サイズは155×63×39mmで重量は428g。本体に内蔵されたホース(短い方)をアンテナのように引き出すと電源が入る。JP02では30cm長で使いやすいロングホースも同梱された。また大径ディスクブレーキ付き車必須の90度アダプターも標準装備している。
静音&オイルレスコンプレッサーなら室内設置も可能だ
エアコンプレッサーというとスペースを占有して音が大きなガレージ用アイテムというイメージが強いが、必要十分な性能とコンパクトさを両立しているプライベーター向けの製品もある。右のコンプレッサーの本体サイズは530×520×300mmと小さめのキャリーバッグと同等で、騒音レベルも68dBAと掃除機並みなので、例えば玄関先で作動させて作業しても許容できる静音性能が特長と言える。
静音オイルレス エアーコンプレッサー 100V 24L ●ストレート https://www.straight.co.jp/item/17-60140/
重量は22.5kgあるので片手で持ち運べるほどではないが、可搬式コンプレッサーとして重宝する。タンク容量が小さいので、空気消費量の多い機器をつなぐと連続運転となる。
エアーゲージ ●ストレート https://www.straight.co.jp/item/15-290/
コンプレッサーが使えるならエアゲージも是非用意したい。ゲージは一般的に600kPaと1200kPa仕様があり、バイクや乗用車なら常用空気圧が読みやすい600kPa仕様がおすすめ。
エアーサブタンク 19L ●ストレート https://www.straight.co.jp/item/17-6080/
住居が集合住宅の上層階でコンプレッサーを下ろせないなら、サブタンクに空気を充填して運ぶという手もある。このサブタンクの場合は重量は6.8kgなので、エアゲージやエアブローガンとホースも一緒に持ち運べる。
エアブローガンセット(3点組)●アストロプロダクツ https://www.astro-p.co.jp/i/2004000010302
コンプレッサーがあるなら、絶対に用意したいのがエアブローガン。ホコリや汚れ、洗車後の水滴飛ばしは無論、切断や研削時の切り粉落としやプラグホールの清掃など、圧縮空気の用途は無限にある。
※本企画はHeritage&Legends 2023年8月号に掲載された記事を再編集したものです。
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