ライダーフィットを考えた加工やチューニングに加え従来より1段階上の整備を提案・タジマエンジニアリング

「CB-Fシリーズは壊れにくい」。そんなイメージから長く乗られた個体も多い。だが、さすがに生産40年。今までの整備内容が通用しないというケースも出てきた。タジマエンジニアリングの村嶋さんはそうしたケースへの配慮と、今までより1段上の整備を提案する。また同店創設者・田島さんとともに築いたCB-Fノウハウで、オーナー個々にフィットする車両も作り出している。

CBの限界も試し従来のノウハウをさらに伸ばすRS

“CB1158RS”と名付けられ紹介する車両のベースはCB-F。タジマエンジニアリングが2010年頃から送り出した“RSシリーズ”の4号機にして最新作だ。RSはCB-Fを元にしたホンダレーサーRS1000に由来し、外装もそのひとつ。フレームネックパイプからスイングアームピボットをつなぐようなサブフレームもそうだ。間に入る数字がベースまたは排気量を示し、この車両では1158となっている。タジマエンジニアリングの村嶋さんに詳しく聞いていこう。

▲タジマエンジニアリングの代表、村嶋俊介さん。今回教えてくれたようなCB-Fのノウハウや作業には頼れる存在だ。

「RSシリーズは3号機を6発CBXで作っていて、この4号機はCBとして3番目の車両になります。外装やサブフレームはRCB/RSモチーフですけど、フレームの補強や足まわりの構成は当店で作っているCB-Fカスタムと基本的には共通です」

現代17インチタイヤを履くCBとして、エンジン下や後ろにもフレーム左右をつなぐ補強を渡し、ネック部下もプレートを追加するなどの手法。トレール量100mmを確保するショートオフセット化など、17インチパッケージとしても確立したものだった。

着脱式サブフレームを外し、外装とヘッドライトを載せ替えてFの17インチカスタムらしいルックスにもコンバートできた。エンジンも900Fや1100Fをベースに作られてきた。CB-F系ではCB1100Rの1062ccを2mm拡大したφ72mmボアでの1123ccが一般的な上限として知られるが、この車両は異なっていた。

▲TAJIMA ENGINEERINGのCB1158RS。RCBをモチーフにしたタジマオリジナルの4号機はスペシャルエンジンで限界値も探る。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

「車名の通り、1158ccあります。じつは900Fをベースに1号機を作るときに、“許せるギリギリまで排気量を上げてやってみよう”って田島さん(歳久さん。同店の創業者で2022年逝去した)と作ったものなんです。ピストンはホンダXR250のφ73mm。XRはラジアルバルブ(放射状配置バルブ)なのでリセスを切り直すなど加工して組んでいます。すごくパワーが出ていて、その後1号機を販売した時には900仕様のエンジンを作って載せて、1158は保管していたんです。

今回4号機の製作に当たって、オーナーさんはパワーのあるバイクの理解もありますし、CB-F現役の頃、モトクロスもやっていた時に田島さんの活動を知っていたので当店を探したという、CB世代の方。BMW S1000RRもかつて乗っていたということで、このエンジンを積んだんです。改めて乗るとパワーもある。納車してそれも理解いただきました。

カウルもより高速域でライダープロテクションができるように、今までより少し上げてセットしたりしています。これからはサーキット(オートポリス)も走ってセットアップを詰めるとともにコメントもいただいていく感じです」

エンジンも車体も走りに徹した作り。耐久性や快適性という点では、RS1号機開発時の走行距離やオイル量など膨大なデータもある。先に述べたようなタジマ製CB-Fカスタムのデータも共通だし、クランク軽量化からピストンやポートの加工など、既にフルにクリアされている。その上での1158cc仕様。どんなノウハウが加わるかも楽しみなところだ。

 

ストリートの使い勝手を意識する作りにも対応

こうした限界値にトライする一方で、村嶋さんは車両各オーナーに適した仕様のことも重視している。もう一台紹介するCB1100Rはその好例と言えそうだ。

「オーナーさんは女性なんです。身長が145cmくらいで、まあ小柄な方。でもストリートで無理がないように、足着き性を良くするように加工しています。当店での作業はそれと、あとスイングアームへのスタビライザー追加くらいで、他のパートはオーナーさんとパートナーさんがプライベートで作っています」

車両全体を見ると、ローダウンされたような箇所はまったく分からない。スイングアームも普通の角度、リヤショックも普通だ。

▲TAJIMA ENGINEERINGの CB1100Rは、小柄なライダーに車高を合わせつつルックスの違和感を感じさせない加工が施される。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

「フレームを加工しました。燃料タンクの後ろでいったんフレーム(シートレール)をカットし、そこでシートが下がります。その後ろのリヤフェンダー部分では再度上げています。シートカウルは車外品を元にパートナーさんがきれいに成形して、自然に見えます」

乗り味に関しては見た目同様に自然で問題もなく、ストリートでとくに気になる足着きに対しては、安心感は大きく高まった。

「ライダーに優しいライダーフィットの見本と取ってもらえるといいですね。過激なこともやれますけど、それだけでも面白くない。せっかくですから思うように乗れるようになればいいかなと」

エンジン仕様や各部パーツのセレクトもその範疇。ホンダ現代車の純正パーツを使うのも、全体に純正らしい雰囲気が作れるように。もちろんスペシャルパーツでもできる。どう乗りたいか。そして、どんな希望や不安があるかも伝えれば、さまざまな手法で応えてくれる。今回の2台はタジマ製車両のそんな例と言える。

 

ヘッドまわりやクランクにも配慮を加えたい

今回見てきた車両作りを支えるのは、村嶋さんの持つCB-Fノウハウだ。それを背景に今、いや、これからFに長く乗りたいなら、気を配る部分を増やしてほしいとも言う。

▲バルブステム径の計測例。ガイド内径も計り、クリアランスを確認したい。細かいことだが、既にクリアランス過多となった車両も増えている。

「車体側は何とかなるとして、エンジンです。一般的なフルオーバーホールでは、ミッションベアリングにシール類、ピストンにリングなどひと通りの消耗品を換えます。でもそれだけで済まないことが増えました。シリンダーヘッドの傷みがとても増えたからです。

バルブステムが痩せて、あるいはバルブガイドの穴が広がって、ステムとガイドのクリアランスが増える、ガタも増える。分かるガタならまだいいですが、ガイドにぱっと見で分からないようなクラックが出来ているとか、ガイドの際(きわ)からオイルが出てポートに回っているようなものもあります。オーバーホールしたばかりなのに白煙が出る……という場合はこの可能性があります。そんな、開けて作業はしたけれど直らないというものが増えています。

今までとオーバーホールのレベルを1段引き上げて考えないといけなくなっています。今まではOKだったというものが、重ねてきた距離や年月で、OKでなくなってると思います。バルブガイド打ち替えなんて、一生に1回なんてくらいの作業ですけど、メーカーの処理も40年以上などは想定していないでしょうから、もうやらないと厳しいと思えます。

ですからヘッドも含めて、より細かいところまで確認する。ヘッドではほかにバルブシートの荒れ。排気側で、クレーターみたいにボコボコになっている。それはシートリングを換えて、シートカットもきちんとやりたい。

▲クランクはプラスチゲージで実クリアランスを計り、それに合わせて組むのがこれから大事になってくる。

クランクまわりも、ジャーナルの痩せがでてきています。今まではクランクケースに組む時にジャーナルメタルをマニュアル記載の嵌合表の番号やアルファベットで合わせて大丈夫でしたけど、それでクリアランス過多になることも出てきました。もういい機会ですからプラスチゲージで実測してそのクリアランスに合わせるなど、ここでも1段上を意識したいですね」

エンジンオイルを定期交換してきたという場合でも、F現役のものと今のSJ規格では質が異なるし、かつてのオイルで劣化した(当時はそれが最高のものだったとしても)ケースもあるだろうとも村嶋さんは続けてくれる。だからこそ今、厳しい目で確認して対処し、これからの楽しみを増やすべきだろう。

Zの2バルブに比べれば4バルブのFは倍近い手間と部品代がかかるが、幸いにして1100Fのカムチェーンテンショナー(これもやりようはある)以外ならパーツの手配、作業など、乗り続ける上での困りごとはないとも村嶋さん。Fオーナーは今こそ、今のうちに、対応したい。

 

従来のオーバーホールで不足する部分に目を配る

ピストンやピストンリングなどのいわゆる消耗品を交換しリフレッシュするエンジンオーバーホール。だが、それだけでは調子を取り戻すに至らないことも増えてきたと村嶋さん。シリンダーヘッドやクランクまわりなど、もう1段鋭い目で見て手を入れるべきとも加えてくれる。

シリンダーヘッドの劣化はとくに確認するべき箇所となった


写真は燃焼室/ポートとバルブガイドのイメージ。今までの一般的なオーバーホールではそのままにされてきたが、これからは特に見ておきたい部分に。


上写真の状態だとバルブシートは排気側(下側)の荒れがひどく、気密も保てないし調子も出せない。リングを打ち替え、下写真のようにシートカットを正しく行う。


写真のバルブガイドはテーパー部にクラックが見える。見逃してしまいそうなこんな箇所も気をつけないといけない域に入ってきたのだ。

 

これまで乗れていた分の負荷が出る個体が増えたから予算感も余裕を


大きな問題がなく乗れていたから大丈夫ではなく、よく保ってたというのが今までの状態といえる。生産40年が経過しギリギリの状態にあったものが増えたので、今細かく手を入れることが大切。予算も16バルブ分のパーツと作業、そして追作業分の余裕ももって当たるようにしたい。

 

クランクのメタル合わせも実測で判断するように


タジマエンジニアリングで純正12.3kgから2kgほど軽量加工するクランク(ウェブに10.50kg/2009年9月の文字も刻まれる)は回転が滑らかで慣性不足もなく、今開けても折れもなく良好だ。


ピストンスカートへのオーベルコートなど、先読み加工での延命にも注目したい。


クランクジャーナル(軸)とクランクケースの間に入るクランクメタル。サービスマニュアルにはジャーナルとケースの目印によってメタルの厚みを選ぶ勘合表が記されるが、クランクの長期使用でジャーナルが痩せ、この表に従った選択では新品を使ってもクリアランスが大きくなるのでプラスチゲージを使い、実クリアランスを正しく計り、それに合わせて組むのがこれからは大事だ。

 

レギュラーで換えるところもしっかり


クラッチハブに入っているダンパーラバー(クラッチダンパー)は経年で固くなる、あるいは変形してしまう。ミッションのベアリングも摩耗する。これらのCB-F定番交換メニューもきちんとフォローしたい。

 

【協力】タジマエンジニアリング TEL0942-53-3931 〒833-0041 福岡県筑後市和泉382-2 https://www.facebook.com/tajimaeng

※本企画はHeritage&Legends 2023年6月号に掲載された記事を再編集したものです。
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