【SPECIAL MODEL IMPRESSION】オオノスピード・GSX1100S
この先20年乗れるGSX1100Sを作る! 一生乗り続けたくなるカタナ像

新型車やカスタムバイクの試乗レポートを中心に、ヘリテイジ&レジェンド誌に寄稿してくれる二輪ジャーナリストの中村浩史さん。そんな彼がプライベートで長く乗り、楽しみ続けてきたのがスズキGSX1100Sなのだ。この特集の機会に、中村さんが改修に当たり、何に気を付け、何をどう変えていったのか? 空冷カタナファンなら今、誰もが気になるだろうその内容を自らまとめてもらった。

レストア車を買って20年で、実は手放す寸前でした

きっかけは中学生の頃。TVドラマ「西部警察」で、舘ひろしさん扮する鳩村刑事と走り回る黒いカタナにひと目惚れ──なんてなれそめはよくある話。そんな少年が実際にカタナを買ったのは2002年、カタナ専門店のレストアコンプリート車でした。

新車当時から知るファンならご存じだろうけど、実はカタナって重いしエンジンはダルいしブレーキは効かない曲がらないってバイク……。もちろん、それを上回る魅力があるから今も人気モデルなんだけれど、僕が買ったレストアコンプリート車はそんなカタナのネガを、当時の現代風にきちんと完全整備した仕様だったんです。

前後のベアリングを高精度のシールタイプにして、キャブレター同調を完全整備、エンジンを適正位置組み付けと適正トルク締め付けするだけで、カタナはまるで別のバイクになるんです。

▲筆者・中村浩史と、購入から20年を超えたGSX1100Sカタナ。街乗り用には扱いやすいDax125もXR250も持っている。それでもやっぱり、カタナで人生を締めたいと考えているのです。

仕事柄、最新のバイクにはたくさん乗る機会があるので、いろんな流行も経験してきました。レーサーレプリカもネイキッドも、アメリカンもトラッカーもスクーターも……、この30年くらいのモデルにはほとんど乗っている。

もちろん、カタナより後に発売されたバイクは、性能も乗りやすさも、ぜんぜんカタナより上なのは当たり前。けれど、性能や乗りやすさに惚れてカタナを手に入れたわけじゃないから、ずっと古くならない。考えてみれば、買ったときにすでに登場から20年、絶版の古いバイクでしたし(笑)。

もし「史上最速」に惚れて当時最強のスーパーバイクを買ったとしたら、その惚れこみポイントは数年後には塗り替えられ、それがずっと続いちゃいますからね。

▲速くもない軽快でもないカタナだけれど、そんな理由でバイクを選ぶわけじゃない!

カタナですか、速くも軽くもないでしょ? ぜんぜんOK。
峠で曲がんないでしょ? そんなペースで走らないもん。
乗りやすくないよね? それ知ってて買ったんだもの。
すべてを超越してカタナが好き、だから乗ってるんです。

それでも、年々シンドくなってきます。理由は車重と、市販車の歴史上1〜2を争うんじゃないか、というほどキツいポジション! ハンドルは低いし遠いし、ステップは高くてヒザの曲がりがキツい。そんなだから、しばらく乗らない期間ができて放っておくと、とたんにグズるし、調子が悪くなる。

ここまで惚れた惚れたと書き続けてきたカタナですが、実は手放す寸前だったんです。

 

部品も廃番になる時が来る。それが絶版車の宿命です

──そろそろ手放すかな、やっぱり長く乗れないね、あのポジションは。もう20年乗ったしさ……。

友人にそんな話をしたのが数年前。ハタチの頃にやった、東京〜九州往復の1500kmロングキャンプツーリングを、30年ぶりにもう一回やりきった後でした。

▲写真左が購入後すぐで、一度はブラック外装(写真右)にしたけれど、すぐにシルバーに戻した。ディスクローターやリヤサス、フロントフォーク、電装をアップグレードしたぐらいだ。

「ばかだな、いま手放したらもう二度と手に入らないぞ。ポジションがキツいならバーハンドルにしちゃえばいいじゃんか」

そう言ってくれた友人って、実はオオノスピードの大野さん。ご存知カタナ専門店のチューナーにしてメカニックで、カタナのことを世界一知り尽くした人のひとりです。

──ええっ!! カタナにバーハンドルかよ、なんて葛藤はあったけれど、背に腹はかえられない。好きなカタナに乗り続けるなら、セパハンじゃなくてもいいか、50歳からのカタナの形があってもいいか、そんな決断だったんです。

バーハンドルキットを組んでもらってからは、飛躍的にカタナで走る回数、距離が増えましたね。なんだよ、カタナなのにセパハンじゃないのかよ、なんて言う人もいたけれど、それでも僕は「いつでも乗れる快適なカタナ」という新しい相棒に満足でした。

▲︎バーハンドル化して20cmは上がって10cmは近づいたグリップ位置。30分も乗るとピキピキになった首、腰、手首がはるかにラクになりました。50歳を超えた今も、これなら何時間だって乗り続けられるのだ!

でも、そうやって走り回っていたら、不注意で事故に遭ってしまい(僕の過失割合はゼロだったんですよ)、再びオオノスピードへ。転倒箇所の修理はもちろん、製作して20年が経ったコンディションもリフレッシュしようか、ってことにもなったんです。

でも、その頃はちょうどコロナ禍の真っ最中で、純正パーツもカスタムパーツも手に入らないって時期。もちろん、塗装や板金の業者さんだって手いっぱいで、気長に待つよ、とは言ったものの完成まで15カ月も要したのが、ここでご紹介する車両なわけです。

▲憧れの黒ボディ銀エンジンを経由して原点回帰の銀ボディ黒エンジンに戻した取材時の姿。車両の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!

バーハンドルなのは引き続き、ノーマルシルエットを崩さず、エンジンまわりはノーマルで、ワイヤハーネスは新品に。20年使ったオーリンズのリヤショックをアラゴスタに換えて、前後キャリパーもそれまで使っていたブレンボのキャスティング4ポッドをもう一度、同じものに一新。パーツのチョイスは、この先も補修の心配が要らないものを中心に選んでもらいました。

絶版車に乗るということは、補修パーツがなくなる心配と戦っていかなきゃいけないということ。純正部品でもカスタムパーツでも、もう手に入らないパーツだって出てくるだろうし、けれど現実的には、なくなりそうな部品をストックしまくるわけにもいかない……。なくなる可能性の低いパーツを専門店と一緒に選ぶ──それも絶版車に乗り続ける知恵なのです。

 

【協力】

オオノスピード 〒260-0006千葉県千葉市中央区道場北1-8-2 TEL043-227-9568 http://ohno-speed.com

※本企画はHeritage&Legends 2023年5月号に掲載された記事を再編集したものです。
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WRITER

Heritage&legends編集部

バイクライフを豊かにし、愛車との時間を楽しむため、バイクカスタム&メンテナンスのアイディアや情報を掲載する月刊誌・Heritage&legendsの編集部。編集部員はバイクのカスタムやメンテナンスに長年携わり知識豊富なメンバーが揃う。