性能をハイバランスさせたエンジンを車体作りと整備で十分に生かしたZRX・トレーディングガレージ ナカガワ
パーツ供給の難化を補うR-Shotは浸透が進む!
今回の取材時に用意されたのは、足まわりや吸排気系の変更、ビキニカウルのフレームマウント化など、純正のスタイリングやカラーを生かしながらひと通りの手が入っていることが分かる車両。ベースはZRX1100で、1997年の初代登場から既に25年だ。
だが、そんな時間経過を感じさせないほどにどの部分もきれいだ。手を入れたトレーディングガレージ ナカガワでは、このパッケージが今後ZRXに乗り続けていくための参考になるという。
▲トレーディングガレージナカガワの代表、中川和彦さん。ZRXシリーズはエンジンだけでなく劣化対策から、エンジンを生かす車体整備にも配慮するメニューまでを幅広く考える。
「この車両は、今後10年乗りたいからと新たにエンジンに手を入れました。入庫前も良好でまだ走れる状態でしたが、より良くしたい、安心感も高めたいと。それでピストンやシフトドラム、6速化したミッション、カムホルダーにオイルポンプと、ほぼすべての内部パーツに当社のR-Shot#M処理を施しました」
TGナカガワ・中川さんの言うR-Shotとは、対象となるパーツに微細な処理用粒子(メディア)を媒体とともにショット=打ち付けることで、対象物の表面硬度を高め、同時に表面が滑らかになる処理だ。「R-Shot#M」は媒体にモリブデンを混入することで、潤滑性と耐摩耗性をより高めるバリエーションで、今の主力となった。
▲TG NAKAGAWAのZRX1100。純正シルエットをベースに今後10年を見据えたエンジン&車体作りを行う。詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!
先にデメリットを言ってしまえばコストがかかる。でも、それだけ。それを大きく上回るメリットがあり、プロショップ(空冷も水冷も)を含めて多くのユーザーが依頼するようになっている。
メリットは先に挙げた潤滑性と耐摩耗性、そして表面硬度の向上。これだけでも対象パーツの寿命が延びることが分かる。運動パーツ同士の組み合わせが多いエンジンなら、フリクションロスが大きく低減出来る。ミッションのギヤで回転ロスが40%減らせるという実測値も得られているほどだ。
その上で、高い寸法維持性がある。例えば使用途中のピストンでも、測定してまだ使える数値が得られるものなら、R-Shot#M処理すればそのまま新品と同じように継続使用できる。ライフが中古のそれでなく、新品のそれ以上になり、かつ抵抗も減って、組み直したものの寿命も延びるというわけだ。先に挙げたもの以外だとバルブやクランクメタル、シフトガイドなどにも施せる。クランクシャフトやカムシャフトはジャーナル=軸部分をラッピング処理して組み合わせることで、スムーズさも確実に担保できる。
中川さんはGPZ900R系エンジンでこの有効性をストリートからTOTハーキュリーズまで試してきた。ZRXシリーズのエンジンはそのGPZ-R系で、TGナカガワではむしろ排気量等の要素からZRXとのパーツ混成エンジンも多く仕立ててきたから、ZRXでも有効なのは分かる。
そして冒頭のようライフ重視の処理が注目を浴びているのは、何より、純正パーツの今後を考えてのことだ。既にミッションまわりで出ないパーツがあり、クランクやコンロッドもZRX1100用純正は出ない。今あるパーツを使っていこうとした時の不安を極力減らしたい。当該パーツだけでなく、周辺パーツにも処理をしておけば負荷が減り、トータルで長く使える。それが認知され、R-Shot#Mの依頼が増えることになった。
組む前の処理と後からの整備も手堅く行いたい
もう一台紹介するZRXは1200Rで、ちょうどこのタイミングでTGナカガワに整備のために入庫してきたものだ。究極のZRXを目指し、15年ほど前には180ps超仕様となり、その後同様のエンジンを組んでノジマNJ2フレームに搭載。さらにフレームをNJ1とし、エンジンは1224cc化や燃焼室のNC再加工、13:1への高圧縮化などを行い、後軸203psを達成した。
▲TG NAKAGAWAのZRX1200R。200psチューニングにR-SHOTも施し3年を経過しつつ整備入庫で好調を維持する。詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!
内部パーツのほとんど、バルブガイドやロッカーシャフトに至るまでにR-Shotが施されている。
「大パワーを出し、過渡特性の調整もして、この状態で3年は経ってますが問題ありませんでした」と中川さん。R-Shotだけでなく、その手前、重量合わせや正しい寸法や数値での組みといった部分も効いているということだ。
「エンジンを作るという点では、私たちがずっとやってきたことが実になっていると思います。それがR-Shotで強化され、かつ均質化もできる。さまざまなパーツに対して効果があるのは間違いない。
エンジンも今はバランスを重視するようになりました。必要なパワーはある。ならば、どう保たせるか、楽しめるか。きれいに楽しみたいというお客さんも増えていますから、そこもバランスします。内部加工と同時にエンジン外観をリメイクするのもだいぶ増えています。これに合わせて、他の部分や車体側も見ておきたいですね」
他の部分も見ておきたいという中川さん。これはノーマルでもカスタムでも通用する話だ。
▲上はZRX1100(アルミブロックに鋳鉄スリーブを挿入。スリーブ外側は直接冷却水が触れる)、下はZRX1200/DAEG(アルミブロック+めっき。ボーリングは基本的に行わない)のシリンダー(左はブロック裏側、右は上面)で、冷却系の違いも分かる。
「まず冷却系です。ZRX、とくに1100は鋳鉄スリーブでその外が冷却水に触れているからとにかくサビが出る。それが冷却系を回ります。ウォーターパイプも鉄ですから、水を抜くだけでまっ茶色という車両が多い。ここはきれいにして、パイプも非鉄の他モデル用にする。
ホースの先のバンドで締める部分あたりにサビが堆積しているのは多いですよ。掃除と交換。ラジエーターのサーモスタットがダメで水が回らず冷えないものもあるので、ここも換える。ホースの水にじみ跡があれば早めに対策です。
▲ZRXでは冷却系の強化が言われるが、内部をきれいにすることでその効果もUP。特にスリーブが鋳鉄、ウォーターパイプ(エンジン左前)も鉄の1100は洗浄でサビを極力取ること。ラジエーターは純正のサーモスタットが設定温度で開くかもショップで確認し、新品にしよう。
シリンダーは、当店では超音波と高圧の洗浄剤で洗浄してきれいにします。オーナーさんと相談して行います。1200やDAEGでもアルミサビが外観をダメにします。ここもリメイク対象」
冷却系はきれいにすれば性能も安定することになる。その上で、と中川さんは続けてくれる。
「車体にも似たところがあります。なかなかやらないでしょうけど、ステムベアリングやスイングアームピボットのベアリング。ここはスムーズに動くか確認します。
ステアリングステムのトラブルは押し歩きで分かります。押していってフロントブレーキをかけると“コツッ”という感触が出る。ハンドルを左右に切ってどこか引っかかるのも同じです。ベアリングボールの入るレースに段差や打痕が出来るかゴミ、サビがあるかして、そこにボールが引っかかっている。これは交換です。その上で、正しいグリス(シャシーグリス)を十分に注す。
スイングアームピボットも同じです。車両に付いていると分かりにくいですが、タイヤ交換などの時にショックも外してすーっと動くか見ておきたいです。
ここがスムーズなのは大前提ですが、そうでないものが意外に多い。この辺がダメだと怖くて走れないはずです。エンジンにパワーがあっても生きない。逆に、車体が良くてもエンジンや特性に不安があれば怖い。エンジンあっての車体、車体あってのエンジンです。この基本が正しければ、もっとZRXは楽しめます」
バイクの基本を押さえれば、手を入れることでの楽しみも深まる。まずは身近なところから、そう考えてもいいのかもしれない。
エンジンとシャシーがお互いを支えあって、よく走る車両となる
エンジンは高い出力をバランス良く引き出すように。その出力を楽しむには安心して乗れる車体が必要だ。そのために気を遣いたいとTGNが推奨する部分は原点的だが、大いに参考になる。
●ENGINE/外観リメイクは内部チューンにもつながり全体でバランス
TGNで組まれたZRX1200エンジン。内部についてはR-Shot#M処理が施され、もはやTGNメニューに欠かせないものとなっている。
こちらは、TGNでチューニング後に5万㎞を走行、リメイク(外観補修)で入庫したZRXエンジン。かつて鏡面加工されたコンロッドが見えるが、今ならR-Shotで延命できる。内部はまったくダメージなく、今後のためにピストンとクランクメタルをR-Shot#M処理し、パワーにより高い耐久性が加わる。
新たにR-Shot#M処理されたミッション/シフトまわりの実例だ。
【TGNエンジンコンプリートメニュー/ZRX・GPZ1100・ZZR1200用】
●ZRX1100
STAGE-1(スタンダードボア仕様)58万3000円、STAGE-2(#1108仕様) 80万3000円、STAGE-3(#1137仕様) 90万8600円
●ZRX1200/DAEG
STAGE-1(ノーマルボア、ハイコンプ仕様)62万4800円
●ZRX1100/1200(6速仕様) 45万9800円
ほか詳細は要問い合わせ
オーバーホールとともに、各オーナーが求める性能をバランス良く引き出すエンジンを組むメニュー。各ステージ後ろの数字は排気量。1100の例ではステージ1はオーバーホールより1ランク上でストリートでは十分なバランス。ステージ2(φ78×58mm)はワインディングや高速クルージングなどあらゆる条件を満たす高出力と高耐久を両立。めっきシリンダーの1200とDAEGではノーマル1164ccのままながら内部加工で過渡特性を良くするのに加え、φ81×59.4mmの#1224メニューも用意。また、クランクへのジャーナルラッピングやピストン/メタル/ミッションへのオリジナルR-SHOT/#M表面処理など、長寿&スムーズ化のオプションメニューも豊富で人気も実績も高まっているという。
●CHASSIS/安心して乗れるための車体のポイント
バイクとして正しい動きができる車体。大物パーツだけでなく、それを支える基本の部分から安心感が高められる。1100なら25年近く、1200も15~20年、DAEGでも6~13年は経つ。今改めて確認しておくといい結果につながる。
ステアリングステムをフレームのステアリングヘッドにつなぐステムシャフト。その上下のベアリング(写真右2点)が不調だと自然なステアリング作動ができない。特に上側はレース(ホルダー)+ボールの構成で段付きも出やすいから注意。写真左のスイングアームピボットのベアリングも同様。単体装着時にすーっとスムーズに動くようにしたい。
フレームに関しては1100/1200/DAEGともリヤショックマウント部に注目。上写真はDAEGのノーマルシート下で、このように3タイプともシートレールは左右独立したまま。そこで下写真のようにこの部分をつなぐ(ボルトオンバーによる)ことでしっかり感が高まる。
【協力】トレーディングガレージ ナカガワ TEL0545-71-3032 〒419-0205静岡県富士市天間1928-7 http://www.tg-nakagawa.co.jp
※本企画はHeritage&Legends 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです。
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