まずは元の状態に戻すメンテナンスを行って自分仕様を作るという提案を形に・飯田レーシングファクトリー
好きなGSで経験を積みショップオープンに至る
GS1200SSは’01年にヨシムラ・スズキGS1000Rをモチーフとして現れた油冷モデルだった。現役当時の人気はそれほど、という印象だったが、スパルタンなスタイルや油冷エンジン、レーサー風の鉄フレームはここへ来て人気が高まっているようだ。
アイキャッチの2台は、そんなGS1200SSをベースにしたカスタム。手前のグレーの車両は’80年代車両の雰囲気が好きだというオーナーに合わせて手が入ったもの。カウルを初めとしてAPレーシングのキャリパーやサンスター・ネオクラシックディスク、マフラーやスタビを加えたスイングアームにその雰囲気が見て取れる。マット×艶ありのブラックツートーンカラーもそんな雰囲気を今流に昇華したようで、好感が持てる。
奥のヨシムラGS1000Rカラーで塗り分けられたGS1200SSは、両車に手を入れた飯田レーシングファクトリー・飯田さんの車両だ。各地のイベントで見たことがあるという方もいるだろう。
▲プライベーター時代からの呼び名をそのままショップ名にした飯田レーシングファクトリーの代表・飯田弘樹さん。
その飯田さんはお父さんとともにプライベーターとしてミニバイクを皮切りにカスタムやレストアを手がけ、18年前にこの車両を手に入れる。カスタムは吸排気系の変更から始めた。元々ボディカラーは青×白だったのだが、アクシデントをきっかけにこの色にリペイントし、物足りない部分に手を加えていくうちにヨシムラへの興味が増していったという。イベントを通じて吉村不二雄さん(社長)やスタッフにチューニングの相談に乗ってもらうようになり、車両にもヨシムラにも愛着を強めていく。
その後、業態の異なる複数のショップ勤務も経験し、自らもいつかはと思っていたというショップオープンに漕ぎ着けたのだ。扱いの中心となっているのは、自身も18年乗ってきたこのGS1200SSを軸にした油冷。他の空冷や水冷4気筒なども扱うが、まずは長い付き合いがあり、プライベーター時代を通じて多くの相談を受けることになった油冷で、となった。
車両自体は7年ほど前のプライベーター時代に見せてもらったことがあるが、そこからは半分以上がアップデートされたという。ホイールやマフラー、サスにブレーキと、プライベーター時代からは確かに大幅な進化が見られる。左右のディスクインナーやキャリパー(ゴールドの上に薄く乗ったカラー)、ハンドルクランプ、スタンドフックが右側赤、左側緑に処理されているのも、ヨシムラ耐久レーサーへのリスペクトとのこと。左右を間違えずに作業を行えるという点に注目してのことだ。
▲飯田レーシングファクトリー製GS1200SS用フェンダーレスキットの装着例でタンデムシート下にも「信玄餅2パックはOK」(飯田さん)というスペースも取れる。ウオタニSP2ユニットを安定して付けられるプレートやリチウムイオンバッテリーをシート直下に置けるボックス、ヒューズボックスステーも同店製。
さらに各部を見ていくと、フェンダーレスキットやスイングアームのスタビ加工、オイルキャッチタンクなど、オリジナル製作品が各所に使われる。これらは飯田さんの自作なのだが、どれもがショップの製品というレベルの作りと機能を持ち、実際に販売されている。飯田さんに聞いてみよう。
「これらのパーツは、油冷に乗っている仲間や自分でもあるといいなと思っていたものです。その上でショップとしてきれいな作りで機能を考えました。フェンダーレスキットはテールカウル内部のスペースが広くなりますし、オイルキャッチタンクはクランクケースカバーと共締めですっきりします。スタビも型を作って、いろいろなスイングアームに溶接加工で付けられる設定にしています。
パーツとしては次はビレットを考えています。ウイングタイプのトップブリッジ、それとアンダーブラケット、これもGS1200SS用。ほかにも私の車両に付いているサブオイルクーラーキット(フロントカウル下に置かれる)もあって、油温が安定して下げられるのですが、これは取り付けが少々難しいので、来店して付けていただくことになります」
’00年でも20年超えという経年をしっかり認識する
そんな飯田レーシングファクトリーには多くの車両が入庫してきたというが、そこから見えてくるポイントは何だろう。
「きちんと乗られている車両も、しっかり手を入れたいという車両もあります。この場合手を入れるというのは、元の状態に戻すという意味です。油冷を扱う皆さんが言っていると思いますが、ベアリング、シールは新品に。グリスアップも正しくですね。その辺がされていないとバイクも重い。
▲飯田レーシングファクトリーではGS1200SSや油冷車用のオリジナルパーツも製作し販売する。右のオイルキャッチタンクは人気商品。左写真は右側がフェンダーレスキット、左手前がオイルキャッチタンク、左奥がバッテリーボックスなど。仕上げも各種あり、ホームページからも購入可能なので確認を。
“グリスアップしてます”というバイクが乗ると重くて、ステアリングヘッドを開けてみたらステムベアリングの上にグリスが盛ってあるだけとかもありました。ちゃんと回ってないし、ベアリングもダメ。その辺に気を遣いたいものが多いんです。ハーネスや電気系もです。ほかにもエンジンマウントのラバーやジェネレーターダンパーのラバーが固まって音が出たりするとか、油冷ならではの見ておきたい部分がスルーされがちです。“GS1200SSは2001年だから新しい”と思いがちですが、もう20年も前なんです。
ですから、まず全部をリフレッシュというか、元の状態にしてください、そこからマフラーやキャブ交換を始め、お望みの形にしてきましょうってお客さんに提案することが多いですね。それにしてもお客さんの予算もあるでしょうから、車両を見て、要望をお聞きして、どこから手を付けましょう、今回はこのパートまでやってその次にこうしましょうとか、全体の展開を考えるようにしています。こちらも納期を守って、お互いにうまく行くよう考えます」
▲飯田レーシングファクトリーの店内はきれいで効率的に作業できるように整理され、油冷を軸に車両が並ぶ。
まず元の状態に、各部をリフレッシュする。カスタムはそのノーマル良好状態があった上で楽しめるもの。油冷はその機構や背景から新しいものという印象も抱きがちだが、実際にはかなりの年月が経ってしまった。でも、飯田さんのようにそれをフォローしようという人がいる。とても心強いことだ。
プライベート時代からの車歴の中で油冷の特徴を学びパーツ製作に役立てる/IIDA RACING FACTORY GS1200SS
まずはヨシムラGS1000Rカラーで塗り分けられた飯田さんの愛車、GS1200SSの詳細を見よう。
カウルはGS1200SSでマジカルレーシング製ライトカバー、NK-1ミラーを装着。メーターは速度計/回転計/燃料計ともスタックでオリジナルパネルにマウント。燃調モニタやZiiXタイヤ温度モニタ、ヨシムラ・プログレスメーターを追加。フロントマスターはブレンボRCSコルサコルタでクラッチマスターもブレンボRCS。ハンドルも左右で色を違えている。
シート下には同店製スカチューン用タンデムシートキーシリンダーステーを置く。塗装はブラッシュファクトリーによる。
エンジンはヴォスナーφ81㎜鍛造ピストンによる1216㏄仕様で圧縮も変更、カムはヨシムラST-1。ポート研磨やバルブポリッシュ、クランクダイナミックバランス&ジャーナルラッピングにミッション研磨等、多くのチューニングを行う。オイルクーラーはGSX-R1100用+オリジナル電動ファンで自製サブオイルクーラーも備える。キャブレターにはヨシムラTMR-MJNφ40㎜を装着。
フロントフォークはオーリンズ倒立、スイングアームはノーマルに削り出しエンドとスタビを加工。リヤショックはオーリンズ。前後ホイールはO・Zレーシング GASS RS-Aだが3.50-17/6.00-17サイズ。ブレーキはフロントがブレンボCNC4ピストンで、サンスター・ワークスエキスパンドディスクのディスクインナーには左に赤色、右に緑色のアルマイトカラーを上乗せ。ステップは「とても踏みやすい」というチームアダチ製だ。
しっかり走る要素を構築した上で’80年代の雰囲気を 纏わせる油冷車/IIDA RACING FACTORY GS1200SS
刀鍛冶製アッパーカウルキットを装着、ハンドルはデイトナセパレート。カウルに合わせて装着位置が低いが、長身のオーナーには問題なし。
フロントマスターはブレンボRCSコルサコルタ、クラッチマスターもブレンボRCS。ハンドルまわりのボルトもワンオフ製作している。
エンジンは1156ccのGS1200SSノーマルでブラックボディのFCRφ39mmキャブレター、プロトラウンド13段オイルクーラーを組み合わせる。バッテリーケースやオイルキャッチタンクステー、ヒューズボックスはワンオフ製作した上でシート下に集中してマウントされている。こういった作りも同店では得意とする。
前後ホイールはGS1200SSの3.50-17/5.50-17サイズで、フロントフォークはGS1200SSのφ43mmインナーチューブをチタンコーティング、アウターチューブもシルバーにダイヤモンドコートを施す。
スイングアームはノーマル+スタビ加工。ブレーキはフロントがAP・4ピストンキャリパー+サンスター・ネオクラシックディスクでリヤがノーマル。
ステップはアグラス製を装着する。
【協力】飯田レーシングファクトリー TEL044-863-7088 〒216-0035神奈川県川崎市宮前区馬絹2-6-3 グリーンピア馬絹1F https://iidaracingfactory.jp
※本企画はHeritage&Legends 2021年7月号に掲載された記事を再編集したものです。
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